プロフェッション委員会 委員
東日本ブロック デザインビジネス研究会
オフィスCWsとインダストリアルデザイナー堀越敏晴が手がけたマスターワーク
近年の案件はNDAにより公開できないものもありますが、公開可能な事例では、クライアントとともに課題整理から商品化まで伴走したプロセス(Creative Workshop)を、デザイン、ブランディングに加え、背景となるコンセプトや開発ストーリーとあわせてご紹介していこうと思います。
漆塗りの“卓上卓”
2002年、(財)国際デザイン交流協会の依頼を受け、デザインセミナーの講師としてベトナムに派遣されました。当時は日本からハノイへの直行便がなく、ホーチミン経由で移動したことを覚えています。現地ではセミナーのほか、工芸品の工房見学も準備していただきましたが、その中でホーチミン市近郊の漆工房と出会いました。ここは日本との合弁企業で、津軽塗りの技法を移植し、ヨーロッパ市場向けにモダンな漆製品をデザインし生産していました。
その工房を訪れた翌日、ホーチミン市内の直営ショップで日本人オーナーとデザイナーにお会いし、オリジナルデザインの話になり、以前から構想していた「卓上卓」を漆器で実現できるのではと考え、帰国後にデザインを送り、試作を依頼。
「卓上卓」は自身でネーミングしたもの。ダイニングテーブルの上に置いて食卓を立体的に使うために考えたものですが、テーブル上に花々を飾るなどの演出、何かの飾り台に使っても良し。二つの円を接線でつないだ独自のフォルムを考案し、意匠登録も申請。2連と3連のバリエーションを図面化して製作依頼、数か月後完成品を受け取ったときはその有用性と可能性を実感しました。
しかし、販売にあたって使用例を見せるにはどうするかという課題がありました。日常的な家庭料理では見映えがせず、料理撮影に十分な予算をかけられなかったため、使用シーンをうまく提示できず、その結果、販売展開には結びつかず。この経験は、デザインだけでなく市場導入の準備の重要性を実感する事例となりました。
製作:インターデザイン(ベトナム ホーチミン市)
携帯用ニッパー型爪切り
爪切りには大きく分けて「クリッパー型」と「ニッパー型」があります。ニッパー型はネイリストや医療関係者などプロ仕様の印象が強いものの、爪の切断面がきれいで爪に優しいという評価があり、もっと一般に普及させたいと考えました。
ユーザーリサーチの結果、普及を妨げる要因として、クリッパー型に比べて高価である、先端がとがっていてコワいという声があることが判明。しかし、先端を丸めるとささくれ処理がしにくくなり、プロ用途には向かず、ターゲットを一般ユーザーに絞り、携帯できる小型版というコンセプトでデザインをスタート。
デザインは握りやすく取り落としにくい形状を目指し、ケミカルウッドを原寸で削りながら試作を繰り返し、ひょうたんのような独特のフォルムにたどり着きました。製造面では、磨きの工程を短縮するため鍛造後の表面肌をあえて残すこれまでにない仕上げ方法を採用し、表面フィニッシュでも特徴を出すことに成功。さらに「手軽に持ち運べる」ことを意図し革製専用ケースも開発。縫う工程を減らすため袋縫いではなく、マグネットを内蔵した巻いて収納できるシンプルなデザインを考案。